Sports News

涙の理由:ティアナ・バートレッタ

このエントリーをはてなブックマークに追加

「Every step counts」  北京世界陸上、リオ五輪の走り幅跳び金メダルのティアナ・バートレッタの口癖だ。  日本語だと、「すべてに意味がある」みたいな感じだろうか。  跳躍練習、ドリル、腹筋、メディシンボール投げ、スタートブロック、テンポ走、ウェイト。日々のひとつひとつの動きが目指す目標につながっている、そう思って練習してきた。 「跳躍練習の時には、着地点に目印を置いて、次のジャンプでそれを越えられなかったら負け、とプレッシャーを掛け合いながらやっている」。  大会前の記者会見でクリスチャン・テイラーとティアナは笑いながら話した。  ポイント練習では彼らに笑顔はない。本番さながらの真剣さで1本ずつ跳び、跳躍の後にはコーチが修正を加える。その後、再び跳躍を行い、修正。その繰り返しだ。  バートレッタは金メダル、連覇だけを目標にこの数ヶ月練習をしてきた。

 11日の幅跳び決勝。 「アプローチのリズムが合わなくて、踏み切り板にうまく乗らなかった」  1本目、2本目は踏切が全く合わず、6m56、6m60と平凡な記録。3本目はファールだったが、ベスト8にはなんとか食いこんだ。 「いつもは4本目から攻めの跳躍ができるのだけど」と話したが、この日は走りのリズムも踏み切りも悪く、調子が上がってきたのが5本目で6m88。ライバルたちは7mを跳んでおり、最終跳躍で7mを狙ったが、6m97で3位に食い込むのがやっとだった。  優勝したリースは7m02、2位のクリシナは7m00、3位のバートレッタは6m97、4位のスパノビッチは6m96と6cmに4選手が入る大接戦だったが、ティアナは「上位2人はお互いに戦っていたけど、私は蚊帳の外で、自分と戦っているような気分だった」と振り返る。   いつものアプローチができなかったこと、それが敗因だった。 「今日は自分が思っているよりも自分はタフということに改めて気づきました」  必死で笑顔を作っていた。

 ティアナはこの春、大きな決断をしている。6年以上にわたる結婚生活に終止符を打ったのだ。終わりにした、というより、逃げた、という言葉の方が正しいかもしれない。詳細はともかく、年上の夫にひどい扱いをされていた、と教えてくれた。  本来はチャンピオンシップイヤーにいつものルーティーンを崩すのはタブーである。でも耐えられなかったのだと思う。荷物をまとめて自宅を出て、オランダに飛んだ。 「私、離婚するの」  6月に告白された時、なんと言葉をかけたらいいのか分からなかった。 「そっか、いい決断だと思うよ」  そう応じたら、ティアナは涙を浮かべていた。  物理的にも精神的にもつらいつらいシーズンだった。    記者会見室の廊下で、レイダーコーチがティアナを待っていた。溢れ出る涙を抑えきれず、ボロボロと涙が頬を伝う。レイダーコーチは静かにハグした。  涙を流しながら立ち去ったティアナを見送りながら、レイダーはこうつぶやいた。 「このレベルの選手の戦いはきつい」  金メダル以外は敗北を意味するから。  灼熱の南アフリカ、底冷えのするオランダ、春のフロリダ。この日のために厳しい練習を行ってきた。でも勝負は非情だ。努力がすべて結果に結びつくわけではない。勝負の日にすべてを発揮した者が、唯一の勝者になることができる。  バートレッタの金メダルへの道は、もう始まっている。時々弱くなる自分に、昨日の自分に勝つために、彼女は戦い続ける。



1ページ中1ページ目を表示中

記事カテゴリ:
ロンドン世界陸上
タグ:

【お知らせ】
Yahoo! JAPAN IDで記事にコメントできるようになりました

このブログの最近の記事記事一覧

この記事へのコメントコメント一覧

この記事にはまだコメントがありません

こんな記事も読みたい

世界陸上の形骸化〜全てを破壊しなくてはマラソン日本復活は無い〜【フシ穴の眼 〜スポーツ編〜】

世界陸上ロンドン10000メートル~日本選手権はかくあるべき~【愛下哲久の「駅伝野郎、らぶりん」】

世界陸上マラソンの結果から感じた国内レースと世界大会の違い【愛下哲久の「駅伝野郎、らぶりん」】

ブロガープロフィール

profile-iconusako-chan

及川彩子(オイカワアヤコ):NY在住ライター。オリンピックスポーツ、野球、サッカー、女子ゴルフなどを取材。雑誌、新聞、ウェブサイトなどに執筆。「月刊陸上」、「スポナビ」、「Number」、「スポルティーバ」、「サッカーダイジェスト」などに寄稿。NYシティマラソンの伴走者を描いた作品で2006年度さいたま市スポーツ文学賞大賞受賞。
Twitter: @ayakooikawa

※当ブログにおける文章と写真の著作権は、作者にあります。文章および写真の引用、使用の際は、必ずお問い合わせ下さい.
  • 昨日のページビュー:22
  • 累計のページビュー:706563

(10月05日現在)

ブログトップへ

このブログの記事ランキング

  1. 【米女子ゴルフ】最終予選会2日目、横峯さくらのラウンド後の表情
  2. 【マラソン】北京世界陸上の代表選考問題
  3. 【モスクワ世陸】アリソン、ケガで転倒ーそして棄権。
  4. クレメンス&トーリ監督からのメッセージ
  5. 米国陸上チームを支える日本人トレーナー
  6. ガトリンを巡る報道ーメディアはガトリンを抹殺したいのか
  7. 【陸上】高校3年の桐生が10秒01の世界ジュニア記録
  8. 日米ハーフの高校生、マイケル・ノーマンくん全米陸上で活躍
  9. 箱根駅伝の直前エントリー変更を考える
  10. 陸上:800mの川元、がむしゃらに泥臭く

月別アーカイブ

2017
08
2016
08
07
06
05
2015
12
11
08
05
03
2014
12
10
07
05
04
01
2013
08
06
04
02
01
2012
12
11
08
07
06
04
2011
11
09
08
07
06
05
03
2010
08
06
05
04
03
02
2009
09
08
07
06
01
2008
12
10
09
08
07
06
05
04
03
01
2007
12
11
10
09
08
07

このブログを検索

スポーツナビ+

アクセスランキング2017年10月05日更新

アクセスランキング一覧を見る

お知らせ

rss